夜の記録から
五月のある夜 わたしは上陸していた 冷たい月光の中で 草も花も灰色 だが 香りはみどりだった。 この色盲の夜に わたしは 斜面を上に向けて滑走し 白い石たちは その間 月に合図を送っていた。 ひとつの時の枠 数分の長さ 巾は五十八年。 そして わたしの背後の 鉛色の微光が揺れる水の彼方に 別の岸があって 時めく人たちがいた。 顔の代りに 将来を待つ人びとが。