『大いなる謎』から
鷲の崖(連詩)

飼養場のガラスの陰に
爬蟲たち
奇妙に動かず。

女ひとり濯ぎもの干す
しじまの裡に。
死はそよとも動かず。

地の底深く
すべり動くわたしの魂
彗星のように音もなく。

 *
絶望の壁……
行き交う鳩たち
顔は持たずに。
 *
炎天下の牡となかい。 蠅が群がり綴じつける
地上への影。
 *
十一月の陽……
わたしの巨大な影が泳ぎ
蜃気楼をなす。
 *
里程標のひとつヾき
みずからさまよい出たかのように。
聴え来る山鳩の声
 *
ブローエルド、ブローエルド、あ、そこにも
アスファルトから立上る
物乞いのような姿で。
 *
黒白のかささぎ一羽
つづら折に跳ね止まぬ
野を横切って。
 *
見てごらんわたしの坐りかた
汀に曳き揚げられた小舟のかたち。
これはしあわせだ。
 *
ひそかな雨の青。
わたしは秘密をひとつささやき
響き合わせる。
 *
歩廊の情景。
なんと不思議なしずかさ――
内面の声。
 *
黙示。
あの林檎の古木。
海が近い。
 *
海は壁をなす
鴎の叫びを聞く――
わたしたちへの合図。
 *
背に神の風。
音なく来る銃撃――
あまりに長いある夢
 *
灰色の静寂。
青い巨人が行過ぎる。
海よりの冷たい微風。
 *
大きく緩やかな風が
海の図書室より
この恵まれた憩。
 *
人のかたちの鳥たち。
林檎の樹々は花をつけていた。
この大きな謎。


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